ブタクサが分布を広げた理由
植物は、風で花粉を運ぶ裸子植物から、虫に花粉を運ばせる被子植物に進化をした。ところが、虫に花粉を運ばせる虫媒花は、虫がいないと成立しない。
そのため、おそらく虫の少ない荒れ地のような環境では、再び、風で花粉を運ばせる風媒花に進化し直す植物が現れた。キク科植物は、被子植物の中でも進化したグループと考えられている。
この進化したキク科の中には、「風で花粉を運ぶ」という古いしくみを採用しているものがあるのである。
ブタクサはこの風で花粉を運ぶキク科の植物である。虫を呼び寄せる必要がないから、ブタクサは花を美しく目立たせる必要がない。
そのため、ブタクサの花は、花とは思えないほど地味である。そして、花の目立つセイタカアワダチソウに人々が目を奪われているその裏で、ブタクサは人間に気がつかれることなく、分布を広げていったのである。
イネ科植物も、被子植物の中ではもっとも進化したグループの一つである。虫の少ない草原で進化してきたイネ科植物は、風で花粉を運ぶ風媒花として進化を遂げた。
そのため、イネ科植物も花粉をまき散らす。カモガヤに代表されるイネ科植物も、花粉症の原因となる植物である。
※本稿は、『雑草学のセンセイは「みちくさ研究家」』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『雑草学のセンセイは「みちくさ研究家」』(著:稲垣栄洋/中央公論新社)
<書籍情報>
田んぼさえ見たことがないイマドキの若者を相手に悪戦苦闘する教授にも、オヒシバとメヒシバの違いさえわからなかった学生時代があった。「お前は破門だ!」と言われながらも“雑草戦略”で生き抜いてきた過去の記憶と、「教えない先生」として学生の成長を見守る現在が交錯する。ベストセラー作家でもある「みちくさ研究家」がつづる、雑草学研究室の青春譜。 人生で大切な“草”知識、雑草レベルの繁殖力でボーボー育ちます。