ヤオハン・プラザ
その影響は目抜き通りの百貨店だけでなく、郊外の日本人用スーパーマーケットにも及んでいた。1993年に現地新聞やテレビを騒がせて開店したヤオハン・プラザという巨大ストアの、数年だけの栄光と没落である。
ロンドン中心部から見るとやや僻地の北部だったけれど、なにしろ東京ドームのグラウンドと同じ延べ面積の超弩級(どきゅう)店舗であった。
ばかでかいスーパーマーケットのほかに大規模な旭屋書店やセガのゲームパーク、日本人美容室、理容室、和食器屋などがあり、フードコートには寿司屋は当然、ありとあらゆる日本料理店が軒を並べていた。
「All Japan Under One Roof(ひとつ屋根の下の日本)」というのがキャッチフレーズだった。あそこを初めて訪れた日本人は皆嬉しそうな顔はしていたが、心の中では口を開けてポカンとしていたのではなかろうか。
ありがたい存在だがこの規模は維持できるのだろうかと。
うきうきと春菊や日本の調味料をマーケットで買いあさっていたとき、店の右奥のほうになんとなく寂しげなコーナーがあるのに気がついた。
他の棚は日本食材が祝祭のようにきれいに並んでいるのに、そこはくすんだ梱包の中華食材が並べてある、というよりは置いてある、というたたずまいなのだった。
地域的には白人が4割以下で中国人も多い場所だったから、中華食材を置くのは理にかなっているのだが、面積の割き方と置き方がひどく寂しい。「All Japan Under One Roof」のポリシーにはそぐわないということだったのか。