「諸行無常という言葉が浮かぶ。国力の低下みたいに感じる。あの時代は何だったのだろう」(写真提供:Photo AC)

 

イギリスの首都、ロンドン。2021年の国勢調査によると、ロンドン在住者のうち4割以上が外国の出身だそうです。魅力的なその街に、密航してまで訪れる人々もいるのだとか。「ロンドンの歴史はローマ帝国が建設したロンディニアムの時代から、人を引き寄せる歴史だった」と語るのは、ロンドン郊外在住の日本人翻訳家、園部哲さん。園部さんいわく「ロンドンにおける日本のプレゼンスは大きく変わった。そのわかりやすい象徴が、日系百貨店の参入と撤退」だそうで――。

ロンドンの日本

ロンドンにおける日本のプレゼンスは大きく変わった。そのわかりやすい象徴が、日系百貨店の参入と撤退だった。ロンドンでは1979年の三越開店から十余年のあいだに、伊勢丹、高島屋、そごうが次々に店をかまえた。

規模の差はあれど、どれも一等地だった。特に最後に開店したそごうはピカデリー・サーカスの真ん前にあの独特の赤いロゴを光らせてどんと建ち、一番印象的だった。

こうした日本を代表する百貨店が続々と進出してくれていたころ、われわれ転勤族はなんとなく心強かった。

ところが、2度目の転勤で2000年に舞い戻ってみると、三越を除いて全部なくなっていた(そごうは本体が倒産したから仕方がない)。

そして一番古い三越も、最後まで手を変え品を変え頑張っていたけれど、2013年にとうとう撤退してしまった。34年の歴史だったという。

ピカデリーからちょっと南に下がったリージェント・ストリートにはいつも三越があった。実はあそこで買い物をしたことは一度もなく、地下の日本食レストランを数回使っただけなのだが、なくなってみると寂しい。

諸行無常という言葉が浮かぶ。国力の低下みたいに感じる。あの時代は何だったのだろう?