2020年に文化庁が1,500人に対して行った国民意識調査によると、茶道を経験したことがない人は全体の約6.5割だそうです。そんな茶道を、日本だけでなく世界にも広めようと活動しているのが、茶道家(裏千家教授)の竹田理絵さん。今回は、茶道にまつわる教養を紹介していただきました。竹田さんは、「利休は茶道における装飾を極限まで削ぎ落とし、一期一会の世界を完成させました」と言っていて――。
引き算の美学
茶道はよく「引き算の美学」と言われます。
例えば、茶道の精神の源流となっている禅寺には枯山水の石庭があります。枯山水とは、水を一切使うことなく、岩と砂だけで山水をイメージさせる空間を作ったものです。
余計なものをギリギリまで削ぎ落としていくと、最後に核となる本質的な「美」が残ります。
千利休が好んだ黒一色の「楽茶碗」やわずか二畳敷きの茶室「待庵(たいあん)」にも、この美意識が込められています。
利休は茶道における装飾を極限まで削ぎ落とし、一期一会の世界を完成させました。それは、それまで絢爛さを競っていた価値観を一変させたといっても過言ではありません。引き算で研ぎ澄ますことで本質が見えてくるという、逆転の発想です。
床の間に飾る花も、たくさんの花で美しさを表すフラワーアレンジメントと異なり、少ない本数で余白を活かすことで、その花の自然な美しさを強調することができます。
余白を察し、その背後にある見えないものの美しさを感じ取ることこそ、日本人が大切にしてきた引き算の美学なのです。
先日ドイツからいらした50代のご夫婦に、「床の間のお花は今朝、私の家の庭で取ってきたものです。日本では少ない花の本数で美しさを表す『引き算の美学』というものがあります」とお伝えすると、
「それはとても素敵ですね。この花と花の間の空間にも美しさがあり、いろいろなものが想像できて逆に広がりが感じられます。日本の美は、深いものが感じられて心に響きます」とおっしゃっていました。