多くの人が子どもの頃に読んだり、読み聞かされたりした「童話(寓話)」。実はその中に「人間とはどのように生きるべきか」といった指針や智恵がたくさん詰まっている、と話すのはジャーナリストの池上彰さんです。今回その池上さんと、元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんがあらためて童話を読み返し、人生に役立つヒントを探します。たとえば池上さんは、「手袋を買いに」は多様性が描き出された作品と言っていて――。
「手袋を買いに」
◎あらすじ
狐の親子が住む森に、寒い冬がやって来た。お母さん狐は、子狐のために手袋を買ってあげようと考える。しかし、お母さん狐には、かつて人間に追いかけられた怖い思い出があり、町に歩を進めることができなかった。
そこで、子狐の片方の手を人間の子どもの手に変え、一人で買い物に行かせることにした。子狐には、「人間に怪しまれないように、店では必ず人間の方の手を出すように」と言い聞かせた。
「どうして?」と聞く子狐には、「狐だとわかれば、捕まって檻に入れられてしまう。人間は怖いものだから」と念を押していた。
ところが、子狐は細く開いた店の扉の間から、間違って狐の手を差し出してしまう。お客の正体に気づいた店主だったが、子狐の持ってきた硬貨が木の葉などではなく本物だとわかると、黙って子狐の手に合う手袋を差し出してくれたのだった。
心配して待っていたお母さん狐とともに帰る道すがら、子狐は「人間はちっとも怖くない」と話した。「どうして?」と尋ねるお母さん狐に、子狐は、「だって、間違って狐の手を出した僕に手袋を売ってくれたんだよ」と、いきさつを説明するのだった。 [「手袋を買いに」新美南吉]