文部科学省が発表した「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」によると、約6割が1ヵ月間で1冊も本を読まないそう。「自分の人生で経験できることには限りがあり、読書によって他者の人生を追体験することから学べることは多い」と語るのは、哲学者の岸見一郎先生。今回は、岸見先生が古今東西の本と珠玉の言葉を紹介します。岸見先生いわく、「与えると損になると思う人がいる」そうで――。
与えることでつながる
それで おまえは、
いちばん きれいな さかなでは なくなるが、
どう すれば しあわせに なれるかが わかるだろう。
(マーカス・フィスター『にじいろの さかな』谷川俊太郎訳)
マーカス・フィスター『にじいろの さかな』は、青く深い遠くの海に住む「にじうお」と呼ばれる魚の話である。
にじうおは虹のように様々な色合いのウロコをつけていた。その中のキラキラ輝く銀のウロコを見た魚は1枚おくれというが、にじうおは断った。
〈ぼくの この とくべつな うろこを くれだって?
いったい だれさまの つもりなんだ?〉 (前掲書)
この話が広まると、誰一人にじうおに関わろうとしなくなった。にじうおがくると、皆そっぽを向いた。にじうおは海中で一番寂しい魚になってしまった。
目も眩むような輝くウロコを持っていても、誰にもほめてもらえなければ何の役に立つというのか。困惑したにじうおはたこに相談した。
たこはウロコを1枚ずつ他の魚に与えるよう助言した。
〈それで おまえは、
いちばん きれいな さかなでは なくなるが、
どう すれば しあわせに なれるかが わかるだろう〉
輝くウロコがなくなったら、どうやって幸せになれるのか。にじうおは困惑したが、小さなウロコを1枚だけほしいといわれた時、小さな魚に与えた。すると、にじうおは不思議な気持ちに襲われた。
そして、その後も次々にウロコを分け与えた。「あげれば あげるほど、うれしく なった」(前掲書)のである。ついに、輝くウロコは1枚になったが、にじうおは幸せだった。