(マンガ:中川いさみ)
厚生労働省によると、認知症の患者は2025年に約700万人まで達するとされています。一方で「認知症の症状は、お天気と同じで晴れたり曇ったり。思うようにいかない日があれば、心が通じ合う<晴れ>の瞬間もある。周囲はそんな<晴れ>を増やす方法を知っておくことが大切だ」と理学療法士の川畑智さんは語ります。その川畑さんいわく、認知症の家族から「私の物を盗ったでしょ!」と言われるのは信頼されている証だそうで――。

「盗ったでしょ」は信頼の証

「ねえ、私の物を盗ったでしょ!?」

こんなことを認知症の家族に言われたら、介護が順調な証拠かもしれません。

認知症の周辺症状としてあらわれる妄想の中でも、トップクラスで出現頻度が高いのが「物盗られ妄想」です。

男性よりも女性に出現しやすい傾向があるといわれ、ほとんどの場合、真っ先に疑われるのが家族など身近な人です。まったく身に覚えがないうえに、介護している自分を「泥棒」として疑ってくること自体が大きなショック。

でも、じつはこの「物盗られ妄想」は、「信用している相手だからこそ遠慮なく疑っている」という「信頼の証」でもあるのです。

神戸に住む75歳の平井さんが「物盗り」疑惑をかけたのは、一緒に暮らす次女。

昔からメイクが好きで、事あるごとに次女さんに、「この化粧品、高いのよ」「すごくお肌との相性がいいのよ」と自慢していた平井さん。

ところが、認知症を患ってからは「勝手に使ったでしょ! こんなに減ってる!」「私に黙って、勝手に持っていったでしょ!」と言って責め立てるそうです。

勝ち気な次女さんも、「そんなわけないじゃない!」と全面的に応戦してしまいます。まさに「土砂降り」です。ただでさえ慣れない介護で大変なのに、次女さんはほとほと疲れ果て、すっかり気持ちも追い込まれてしまっていました。

そんな妹を心配した遠方に住んでいる長女さんから私に連絡が入り、急遽、熊本と神戸を結ぶオンライン会議が開かれたのでした。