作家・エッセイストの阿川佐和子さん(左)と詩人の伊藤比呂美さん(右)(撮影:岸隆子)
3月23日、東京・東銀座で開催された「婦人公論ff倶楽部」オープン記念トークイベント。第1部には、本誌でも人気の阿川佐和子さんと伊藤比呂美さんが登壇しました。おふたりが考える、老いや孤独と向き合いながら人生後半を楽しむ方法とは――(構成:田中有 撮影:岸隆子)

作家になっていなければ

阿川 こんにちは。お久しぶりです。今日は「年をとるって面白い」というテーマでお話をするそうで。

伊藤 面白いんですか?

阿川 そうとも限らない。本当に面白いかどうかはこれから検証していくとして、まずは会場の皆さんから事前にいただいた質問にお答えしていきましょう。

「作家になっていなければ、何の職業に就いていましたか」。(京都府・60歳)

伊藤 私は簡単ですよ。学校の先生。3年前まで3年間、早稲田大学で教えていて、むっちゃ楽しかった。天職ですね。

阿川 天職って、どういうことですか。

伊藤 昔、大学を出て1年だけ中学校の教員やったんです。よかったんだけど、不倫したり詩を書いたり忙しくって(笑)、悔いが残ったの。だから大学では、心魂傾けて学生に向き合いました。阿川さんは?

阿川 私は専業主婦になるつもりで、20代は何十回もお見合い。父が物書きで、一日中家にいて不機嫌な家庭で育ったわけですよ。だから父と正反対の、情緒の安定した会社勤めの人と結婚できたら理想だなと。

伊藤 ファンタジーですね。

阿川 20代の終わりころにテレビ局に呼ばれてレポーターになり、そのあとは原稿書いてみませんかって言われて、それがグズグズ続いて今に至ります。

伊藤 最初はお父さまに添削されたそうで。羨ましいわぁ。

阿川 はじめはどれも親の七光りですよ。野望があったわけでもなく、とりあえずひとつずつ仕事に決着をつけては次に繋げているうちに年とっちゃった。