写真提供◎AC
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第69回は「優しいお医者さんに救われた」です。

始まりは、歯茎の異物感だった

始まりは、歯茎の異物感だった。なにか歯についてる? そう思って歯間ブラシで歯茎をつつくと、次の日から激痛が始まった。何かがついていたわけではなく、歯茎自体が腫れていたのだ。いつも通っているA歯科に電話すると、予約がいっぱいで1週間後しか予約ができないという。「我慢できそうですか?」と聞かれ、「わからないです」と答えた。でも、日に日に痛みは強くなり、痛みで歯を食いしばり、さらに痛くなり、鎮痛剤でなんとか耐える、の繰り返し。仕事に集中できない。歯の痛みって、意識のほとんどを持っていく。

右側でご飯を噛めなくなった。歯茎だけが痛いはずなのに、ご飯を噛むと激痛が走る。左側だけでご飯を噛むようになると、今度は左側の奥の歯茎が痛くなり、一部真っ赤になって、激痛が走る。何を食べても口の中が痛くて痛くてしかたがない。

やっと明日には受診できるという日、痛みが限界を迎えた。歯医者に電話し、「すみません、痛すぎて我慢ができません。なんとか今日診てもらえませんか」と言うと、キャンセルが出たので夕方に来てと言われた。レントゲンを撮ってもらい、診てもらうと、先生は「虫歯じゃないですね」と言う。そして「歯周病ですね。歯磨きを頑張ってください」と言われた。「左側の歯茎が痛いのはなんでしょう?」と聞くと、「これは虫歯ですね」と言う。

しかし、虫歯の場所を特定しようと叩いて検診されるも、どこも痛くない。原因は有耶無耶にされたまま、「僕からは以上です」とクロージングに入ったではないか。「日にち薬と言うことですか?」と聞くと、「え、日にち薬って何?」となぜか少しキレ気味に言われた。「薬は出してもらえないんでしょうか」と食い下がるも、「だって出しても意味がないです。歯磨きでしか治りません」と突き放されてしまい、しぶしぶ引き上げ、その日は言われた通り丁寧に歯磨きをした。