乳がんサバイバーのお二人と患者を支える医師による、がんとのつきあい方を考える対談後編。治療がはじまるとパートナーや家族との関係性の変化を感じる人が多い一方、「自分が悪かったんだ」と自身を責めてしまう人も少なくないのだとか。そんな当事者に三人が投げかけるのは、対決するのでも逃げるのでもなく「がんと向き合う」ことの大切さです

〈前編はこちら

自分を責めない、子どもを蚊帳の外におかない

勝俣 がんになると、家事をするのがつらいこともありますよね。でも、見た目は「普通」だから、「なんで家事をサボるんだ」と怒る夫もいる。せっかく作った料理の皿を、「まずい」と放り投げたり。

山崎 治療で味覚障害が出て、味付けがわからなくなることもある。そういうことを理解してほしいです。

勝俣 あんまりひどい場合には、夫だけ呼びつけて、厳重注意することもあります。「奥さんがどんなにつらいか、わかりますか」と。男は権威に弱いですから、私が話すとみんな神妙に聞く(笑)。お皿を投げていた旦那さんも、人が変わったように優しくなりました。悪気があるのではなく、「わからない」ことが問題を引き起こしていることも多いわけですね。

桜井 困ったら、お医者さんにガツンと言ってもらうのがいいかも。

勝俣 夫に対してだけでなく、「子どもにどう話すか」もとても大事。なかなか話せないという女性も、やはりいます。

山崎 悩んでいる人は多いですね。

勝俣 お子さんの年齢や性格などにもよりますけど、小学生くらいになれば、病気のことはきちんと理解できます。小児科の研究によると、大人が考える以上に、病気に対する子どもの対応能力は高いんですよ。「お母さんが、がんになった」と聞くと、助けてくれる子が多い。ですから、「どうしても話せない」という方の場合には、一緒に連れてきてもらい、この子なら大丈夫と思ったら、私の口から説明することもあります。

山崎 家族に異変が起こったと何となく察しているのに、蚊帳の外に置かれてしまうと、子どもの不安はさらに募ると聞きます。

勝俣 「がんになった妻を理解しない夫」の話をしましたが、実は患者さん自身にも理解不足はあって、「がんになったのは自分のせい」と自分を責める方が、これまた多いのです。食生活が悪かったとか、健康管理を怠ったからがんになった……とか。

桜井 「がんは生活習慣病だ」と言われてしまうと、仕事のしすぎが悪かったのかとか、自分の過去が全否定されたような気持ちになります。

勝俣 そんなことを言っているのは、世界中で日本だけです。ストレス原因説も完全に否定されていますから。

山崎 生活習慣が関わるとしたら、喫煙ぐらいだそうですね。

勝俣 なのに、日本社会は発がん物質の塊であるタバコには逆に甘い。治療中の妻に「玄米を食べろ、野菜を摂れ」と言いながら、傍らでタバコの煙をくゆらせるなんていうのは、ナンセンスの極みなのに。

桜井 ほんとに、いろいろおかしな振る舞いがまかり通っていますよね。

勝俣 そういうところも、怪しい情報ばかり発信するメディアの罪なのですが。重要なのは、患者さんは、いろいろな不安を抱えつつ、同時にしっかりがんと向き合っていく必要があるのだということ。誤った情報のために自分を責めていたら、その点でもマイナスです。どうか、がんを自己責任と考えないでほしいと思うんですよ。