(撮影:本社・武田裕介)
2000年に『きょうのできごと』で作家デビュー。2014年に『春の庭』で芥川賞受賞、2024年『続きと始まり』で芸術選奨文部科学大臣賞・谷崎潤一郎賞を受賞など、活躍を続けてきた柴崎さん。幼少期から忘れ物や片付けができないなど、困りごとが多かったという柴崎さんは、コロナ禍をきっかけに専門外来を受診し、ADHDの診断を受けました。そして、自分の特性を理解し対処法を考えるという、その検査での経験を、当事者として書いてみようと思ったそうで――(構成:野本由起 撮影:本社・武田裕介)

発達障害の診断と経験を綴る

大学卒業後、大阪で会社員をしながら小説を書いていました。ですが、毎日同じ時間、同じ職場に通うのは向いていなかったようで、次第に定時ギリギリになったり、書類が見当たらずにしょっちゅう探していたりして。

作家として仕事を始め、会社を辞めてからも「私はみんなのように会社勤めができないダメな人間。だから、ひとりで自宅でできる仕事をしている」と思っていました。

私は子どもの頃から忘れ物が多く片づけも苦手で。大人になっても、困りごとは尽きません。家で洋服の山を前にしながら、「これはクリーニングに出さねば」「クリーニング店のカード、どこにやった?」「そうだ、あの原稿、そろそろ締め切りだ」と頭のなかで複数の考えが同時に浮かんで何もできない。

電車を乗り間違えた時には、正しい路線に戻るためのルートや遅れを取り戻すための手段、待ち合わせ相手への対応などが一気に浮かびすぎて、動けなくなってしまうんです。

 

『あらゆることは今起こる』(著:柴崎友香/医学書院)