ウクライナ軍兵士として戦い、戦死したイリーナさんの息子ドミトロさんの写真を見せてくれた(24年3月、南東部ザポリージャ近郊)
2022年2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻。今もウクライナでは市民がミサイルに怯える日々が続く。長引く戦禍のなかで追い詰められていく苦境を、2つの家族の姿を通してレポートする(取材・文・撮影:玉本英子)

前編よりつづく

息子と甥が相次ぎ戦死

昨年7月、イリーナさん夫婦のもとに悲報が届いた。息子のドミトロさんが、任務中に戦死したのだ。葬儀はイリーナさんの娘がいるウクライナ側の町で行われることになったが、本来、車で数時間先の道も戦闘で分断。支配地域からの移動は容易ではない。

イリーナさんだけが、ロシアとベラルーシを経由し、リトアニアに抜けてからポーランドへ、そしてウクライナに一時戻って葬儀に参列した。そのあと、また同じ道のりでロシアを通って占領下のヘルソンまで戻らねばならなかった。

その3ヵ月後、夫婦は再び悲しみに襲われる。東部の前線で戦っていた、甥のオレクサンドルさん(41歳)までもが亡くなったのだ。