故郷と家族への思いを胸に
いま、戦没兵士に給付される補償金を受け取れずに、生活が困窮する遺族が相次いでいる。国民が苦境にあえぐなか、役人の汚職が横行していることへの不満も噴出している。
ロシア軍への怒り、ミサイル攻撃と絶えない犠牲、発電所破壊による停電の頻発、そして先行きの見えないことへの不安……。人びとは、生活も心も追い詰められ、疲弊しきっていた。
今後、ウクライナがもしこの戦争に負けるとすれば、ロシア軍との戦いだけでなく、政府への不信や疲弊が、戦局を大きく左右する要因となるかもしれない。
息子と甥を亡くし、故郷を占領されて家を失ったイリーナさんは、戦禍の2年を振り返る。
「戦争前の普通の日々が、どんなに価値があったことか……。平和の重みを改めて感じています」
私は南部や東部の前線をまわり、たくさんのウクライナ兵たちに出会った。砲弾が飛び交うなか、故郷と家族への思いを胸に必死で戦っていた。
2年前に訪れたオデーサ郊外の墓地を、再び訪ねた。戦没兵士が埋葬された区画は、いま何倍にも広がり、敷地を越えて裏まで延びている。一面に並ぶ真新しい墓標。兵士の数だけ立つウクライナ国旗が、夕空を覆いつくすかのように風に揺れていた。