前線で戦死したオレクサンドルさんの妻オレナさん。軍から彼女のもとに届いたのは「名誉の戦死」を称える紙1枚だった(24年3月、中部・チェルカスィ)

遺族補償金をもらえぬ妻

1ヵ月後、私はイリーナさん夫婦とともに、オレナさんの避難先の町へ車で向かった。

幹線道路のわきには、軍を称える看板が並ぶ。「ウクライナは勝利する!」「わが軍を信じよう!」。戦況悪化に伴う兵員不足から、「ともに兵士の戦列に加わろう!」と入隊を呼びかける看板も目立つ。

避難先の家に着くと、孫たちがイリーナさん夫婦に駆け寄ってきた。部屋には、戦死した息子ドミトロさんと、甥オレクサンドルさんの写真が飾ってあった。

一家はさらなる悲しみに直面していた。オレクサンドルさんの妻・オレナさんが、本来受け取ることができる戦没兵士の遺族補償金を申請したが受理してもらえなかったのだ。