日本には、長きにわたって愛されてきた<昭和歌謡曲>が数多くあります。日本人は、なぜ昭和歌謡曲に魅了されるのでしょうか?日本近代史を専門とする日本大学商学部教授・刑部芳則さんの著書『昭和歌謡史-古賀政男、東海林太郎から、美空ひばり、中森明菜まで』から一部を抜粋し、当時の時代背景とともに懐かしの名曲を振り返ります。今回のテーマは「男女の発展場と別れのシーンの変化」です。
男女の発展場と別れのシーンの変化
昭和30年代を迎えてムード歌謡が出現したのは、作曲家吉田正の奇抜なアイデアだけが理由ではなかった。
その背景には夜の社交場である大人の男女の発展場が大きく様変わりしてきたことが影響している。
朝鮮戦争の特需景気の頃は、「トンコ節」「ゲイシャ・ワルツ」「野球けん」などのように、芸者が同席するお座敷が人気であった。
それが神武景気以降になると、東京の銀座を中心として、全国各地の夜の街にネオン燦めくクラブやキャバレーが隆盛してくる。