(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
「今日、歴史と文化がますます情報戦の武器となり、政治的な動員のための旗幟となっている」――。そう語るのは、評論家・近現代史研究者として各国の博物館や史跡を調査する辻田真佐憲さんです。今回は、辻田さんが約2年半におよび国内外の「国威発揚」をめぐった成果をまとめた『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』から、米国・トランプ・バーについてお届けします。

トランプ・バーでトランプ・ワインを味わう

トランプタワーは、セントラルパークのすぐ南、マンハッタン中心部の五番街にそびえ立っている。道路に面したビルの一角はまるでノコギリの刃のようにギザギザした独特のデザインをしており、一目で見るものに強烈な印象を与える。

このあたりはニューヨークでも指折りの裕福なエリアであり、ブルガリ、シャネル、プラダなどの有名なブランドがしのぎを削り、トランプタワーの1階にもグッチが入店し、タワー隣にはティファニーが店を構えている。このティファニーは、かつてオードリー・ヘップバーン主演の映画『ティファニーで朝食を』のロケが行われたところだ。

若き日のトランプ前大統領(取材時。以下敬称略)は、この華やかな場所で勝負に打って出た。

ニューヨークの周辺区(アウターボローズ)にて中産層向けの地味な不動産開発で財を成した父を超えるため、マンハッタンでリスクの高い投資をあえて行い、1983年、わが名を冠した複合ビルを建てたのだ(建設にあたっては、ポーランドからの不法移民が安価で大量に雇われたと指摘されている)。

地上58階建てだが、トランプはみずからが住む最上階を68階と呼んだ。安倍元首相が、トランプの大統領当選後にゴルフのドライバーをもって駆けつけたのもここだった。トランプタワーは、まさにトランプの富と上昇志向と大言壮語癖の象徴なのである。