自然豊かな地方に戻りたい気持ち
25歳を超えたあたりからか、進学や就職で上京した同級生たちが、ひとり、またひとりと地元へ帰って行った。
私には、学生時代からの仲で、東京でも仲良くしている親友がいる。親友は私より一足先に、18歳の時に東京の大学に通うため上京した。進学で地元を離れる人は、みな異口同音に「田舎に飽きた、都会に行きたい」と言って出て行った。親友は都会がいいから絶対に東京に住む、と決めていたらしい。
しかし、10年が経ち徐々に心が揺らぎ始め、いよいよ地元に戻ることを真剣に考え始めた。親友は実家が会社を経営しているため、そこで働かせてもらえるらしい。実家の立地もいいため、生活にも困らない。地元に戻れば住む家も、働き口も用意されているのだ。
一方私は、地元に戻るとなると職種を変える必要がある。また、実家が山奥でかなり不便で、車も絶対に必要なため、地元に戻る選択肢は現実的ではない。しかし、東京に別れを告げ、生まれ育った自然豊かな地方に戻りたい気持ちはすごくよくわかる。
地元にいた時は、些細な噂も一瞬で村中を駆け巡った。家族構成はもちろん、どこに勤めているかとか、誰が結婚した離婚した、あそこの親はスナックに通っているらしい、とかそんなパーソナルな情報をみなが把握していた。スーパーに買い物に行けば必ず知り合いに会う。どこにいても、誰かの視線が絡みつく。その閉鎖的な空気が、とても息苦しかった。
東京に出てきて、最初はすごく解放された。ここでは街でどんな格好をしていても、好奇の目で見られることはない。渋谷の街を歩いていると、地元では絶対に見ない、カラフルで独創的な、思い思いの格好をした人がたくさんいる。そして、誰も気に留める様子もない。ここではみんなが放っておいてくれる。それがすごく心地よかった。
家賃も物価も高いけれど、東京駅の前を歩けば、この景観のために家賃や税金を払っている、と少し思えるくらいの、胸がスッとするような景色が見られる。少し電車に乗れば、無限に世界が広がっている。それが楽しく、胸がわくわくした。