左から、半襟、かかえ、振袖、帯、帯締め。紫式部をイメージして仕立てた着物は、草乃さんが反物の染めからこだわり、刺繍を施した。「新春のお出かけは何を着ていこうかしらと、こうしてソファに並べて組み合わせを考えるのが楽しいの」(撮影:大河内禎)
古くは仏教美術として広まった日本刺繍。美しく光り輝く絹糸は、能装束や格式の高い着物に用いられてきました。その伝統工芸を日常でも楽しめたら―。80歳になる草乃しずかさんが、半世紀以上かけて提案する作品の魅力、手仕事の面白さとは
(取材・文:山田真理 撮影:大河内禎)

産着に一輪の花を

NHKの番組講師をはじめ、国内外で作品展を開催し日本刺繍の魅力を伝える草乃しずかさん。その作品をこの目で見たいと、2024年に日本橋で開かれた「草乃しずか 日本刺繍展―源氏物語を花で装う―」を訪ねた。

絞られた照明の中に浮かぶ絹糸の光沢、繊細な色彩の表現。会場を訪れた人々が、食い入るように作品を見つめる姿が印象に残った。

東京都杉並区の静かな住宅街にあるアトリエを訪ねると、自身が考案した作業台で針を動かす草乃さんの姿が。「この台を好きな場所に動かして、家事の合間でもすぐ作品に取りかかります」と微笑む。

 

源氏物語に題をとった「六条御息所」。 上段は左前見頃の拡大