主婦から伝統工芸の道へ
日本刺繍の教室を探し、作家の丹羽正明氏に師事が叶う。《糸撚り三年》とも言われ、細い絹糸を何本使い、どの程度の強さで撚るかを学ぶだけでも年月のかかる世界。
「着物や帯にも刺繍をするようになった頃、生涯教育講座で日本刺繍を担当することになりました」。

この日、江戸小紋に合わせた帯。折り鶴、ぽっくり、恋文……。少女のような気持ちを大事にしたいと遊び道具を刺繍でちりばめた
戦前は女学校でも教えられていた日本刺繍だが、戦後は職人を目指す人が学ぶものという風潮が強まっていた。
「そこへ主婦の私が、『半襟のように簡単なもので楽しみましょう、道具もお手持ちのフランス刺繍の丸枠でいいですよ』と提案したのが思いのほか喜ばれて」。暮らしの中で気軽に日本刺繍を楽しむ講座は評判を呼び、NHKの教養番組の講師として呼ばれるようにもなる。

床の間がなくても季節を感じたいと、アトリエでは毎月しつらえを替える/「睦月」