2025年3月26日放送の『徹子の部屋』に出演した、書家・金澤翔子さん。ニューヨークで個展を開くなど世界的に活躍する傍ら、2024年12月には喫茶店「アトリエ翔子喫茶」をオープンし、活動の幅を広げています。今回は、母・泰子さんが翔子さんとの日々を綴った『いまを愛して生きてゆく ダウン症の書家、心を照らす魂の筆跡』から、一部を抜粋してお届けします。
白い雲を取る
翔子は彼女の独自の方法で商店街で毎日を確かに生きて、堂々たる37歳の一人暮らしをしている。私は娘が立派に生活していることに感動する。
そんな翔子と私は今、周りに遮るものがなく天空に溶け込むように高台の高い階の部屋に住んでいる。翔子が4階、私が5階。
空に白い雲が低く流れていて、その雲に手が届きそうなある日、翔子が小さなプラスチックの箱を持って5階の私を訪ねて「お母様、白い雲を取ってこの箱に入れておいて」と素っ気なくその箱をおいていった。
翔子の住む4階より私の5階のほうが雲に近いと思ったのだろう。けれどあれほど賢く一人で破綻(はたん)せずに生きているのに、雲をプラスチックの箱に閉じ込めて所有できると思うのかしら。こんな時、私は暗澹(あんたん)たる思いに襲われる。