(写真提供:Photo AC)
「この国で各地の地裁に起こされた民事訴訟は年間14万件、起訴された刑事事件は6万件。そのうちニュースとして報道されるのは、ごくごくわずかな一部にすぎません」と語るのは、日本経済新聞電子版「揺れた天秤~法廷から~」の取材班。そこで今回は、この大好評連載をまとめた書籍『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』より一部を抜粋し、<学びになるリーガル・ノンフィクション>をお届けします。

夢の大型マンション「晴海フラッグ」

契約時にご案内していた引き渡し予定日を1年程度変更することになります──。

2020年6月、東京都内の50代の男性は自宅に届いた書面に言葉を失った。

東京都中央区の湾岸エリアで、全5600戸ほどの大型分譲・賃貸マンションと併設の商業施設などからなる「晴海フラッグ」。選手村の宿泊施設を大会後に改修する計画で、大手不動産11社が関わる大規模開発だった。

海を眼前に遮ることのない眺望に心をつかまれ、男性は最初に開かれた説明会で妻とふたり、終のすみかにすることを決めた。