「夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしの生活」を送る、元朝日新聞記者でアフロヘアがトレードマークの稲垣えみ子さん。40代に入った当時、一人出かけた街でふらりと店に入り、酒と肴を味わってリラックス、そんな【一人飲み】に憧れた、稲垣さんは、勇気を出して酒場に突撃。失敗しながらも、そこでは素敵な出会いがあったそうで――ソロ飲み冒険を描いた痛快エッセイ『一人飲みで生きていく』より一部を抜粋して紹介します。
どうしても一歩が踏み出せない
何はともあれ、私の体を張った汗と涙の「一人飲みデビューレポート」から始めさせて頂こうと思う。
とはいえ、その前に。
「寅さんに憧れて一人飲み修行を始めた」わけだが、現実には、この「憧れて」と「修行を始めた」がスンナリつながったわけではない。早い話が、かなりの時間が無為に流れたのである。
というのも、確かに憧れてはいた。ものすごく。しかしイザ実行しようとすると、これがぜーんぜん簡単じゃないんだもん。
だって、考えてもみてくださいよ。一人飲みですよ?で、一応私、女性です。しかも当時はアフロでもなんでもなくセミロングのどこにでもいるフツーの女。
もちろんイマドキ女性だからなんだって話ですが、現実問題として、酒場においてはまだまだ女はマイノリティー。
もちろんグループでワイワイ飲むスタイルなら、今や女性だけの会だって珍しくもなんともない。しかし一人となると、いきなり話が違ってくる。