中野信子さん(撮影:本社・武田裕介)
脳科学者として脳や心理学をテーマとした執筆活動をはじめ、テレビ番組の出演など活躍の場を広げている中野信子さん。子どものころは周りになじめず、その後も一般的とは言い難いキャリアを歩んできたという中野さん。そんな中野さんが寄せられた人生相談に「サイエンスの視点」で回答したという本書。人生相談を通して提案したかった「あること」とは――。(構成:野本由起 撮影:本社・武田裕介)

悩みは時に強みになる

今でこそ脳科学者として本を書いたりテレビに出演したりしている私ですが、子どものころは周りに溶け込めず、ずっと違和感を抱えていました。

幼いころから「原子核と電子の間には何もないから、モノはほぼ空洞なのに、私たちはなぜそれにさわれるんだろう」などと考えていたので、おかしな子だと思われていたのでしょう。

友達はできず、日々図書館で本を読むばかり。なぜ私だけが浮いてしまうのか、脳について学んで原因を知りたいと思うようになりました。

そこで東京大学に入ったところ、私以上におかしな人たちがいて、ほっとしたと同時に、話が合い気持ちが楽に。私はこれまで自分に合わないゲームをしていただけで、私に合うゲームがあったんだと、その時初めて気づきました。

とはいえ、その後のキャリアも一般的とは言いがたいものでした。研究者の間では、テレビに出るのは本業をおろそかにした恥ずかしいことという認識があります。私自身も「自分は研究者として能力がないのでテレビに出るしか道がない」と思っていました。

私がメディアに出るのは、研究で明らかになった科学的な知見を社会に還元するためです。日本では科研費、つまり税金で研究を行っていますから、その成果は国民に還元されるべき。

私がテレビで科学について述べることも、アカデミアと社会のギャップを埋めるための大事な仕事だと今は思っています。