ライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります
出張では「外に飛び出せる格好で寝ろ」と言われた
私は70歳から、ベッドの下に歩きやすい靴を置いて寝ている。靴の大切さを教えてくれた人たちがいて、それを急に思い出したからである。
寝ている時に地震が来た場合、1人暮らしだから誰も助けてくれないと思い、避難するために、靴を置くことにしたのだ。
私は、20代の時に就職と失業を繰り返し、27歳の時に業界新聞社に入社した。始めて出張して取材をすることになった時のことである。
副編集長が、「夜寝る時は、お洒落なパジャマを着て寝るな。ホテルで火災が起きた時、女の人は洋服に着替えようとするから、逃げ遅れる。いつでも飛び出せる格好で寝ろ。撮影したフィルム(当時はデジカメではなかった)は、持って逃げられるようなバッグに入れて、枕元に置いておけ」と言われた。
それを聞いていた編集長が、「その通り。靴もベッドの下に置いて寝なさい」と付け加えた。
すると、副編集長が、「いっそのこと、服を着て、靴を履いて寝ろ」と言った。
女性記者は私1人だったので、面白がられているのだと思い、私は、「からかわないでくださいよ」と言ったが、編集長と副編集長は、真剣な顔なのだ。
副編集長は、「靴は大切だぞ。俺が中学生の時は、東京ではあちこちで空襲があり、夜は寝間着を着ずに、服を着て寝ていた。近くで空襲があった時は、次はうちの方だと思い、靴を履いて寝たこともある」と話し出した。
編集長は、戦争当時は大学生で、東京で下宿をしていて、「僕も空襲があるといけないから、すぐ逃げられる格好で寝ていた。靴は傍に置いていた」と言う。