内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、令和6年の労働力人口6,957万人のうち、65歳以上の人の割合は13.6%となっています。そうした状況について、近畿大学教授の奥田祥子先生は、「日本では急速な少子高齢化の進行を背景に、60歳を過ぎても働き続けることが可能な環境整備が進んでいる」と話します。今回は、そんな奥田先生の著書『等身大の定年後 お金・働き方・生きがい』から一部を抜粋し、ご紹介します。
苦難の末に「快適」な再雇用
稲穂が黄金に色づき始めた2023年秋、同年春に60歳の誕生日を迎えて定年退職し、再雇用で嘱託社員としてフルタイムで働き始めて数か月の田川勉さん(仮名)は、晴れやかな面持ちでこう話した。
「とても快適に働かせてもらっています。たぶん、私ほど順調に定年後の仕事に携われているケースは稀なのでしょうね。まず、定年前まで長い間、働かせてもらった会社の人たちが、こんな私でもこれまで蓄積してきたノウハウや経験を必要としてくれていること。そして、その期待に応えることで、私自身がやりがいを感じられているのが一番ですね。もちろん、定年退職してからも収入を得られるというのはありがたいですが……それよりも、人の、会社の役に立てているということが、何ものにも代えがたい充実感をもたらしてくれるというか……。自分は本当にラッキーで、感謝の気持ちでいっぱいです」
だが、田川さんの会社員人生の半分は、幸福感よりも苦悩が大幅に上回っていたであろうことを、筆者は長年の取材を通して目の当たりにしてきた。
自身を“万年課長”の「負け組」と称し、働くモチベーションを失いかけた時期もあった。上司との人間関係がギクシャクして手柄を横取りされたかたちとなり、やるせない思いを明かしたこともあった。
そうした「負け組」の苦難を乗り越えた先に、定年後の再雇用を「快適」と捉えられる第二のキャリア人生を迎えることができたのである。