2016年に逝去された登山家・田部井淳子さんは、女性初のエベレスト登頂を成し遂げたことで知られています。今回は、田部井さんがこれまでの出来事をエッセイとして書きまとめた著書で、2025年10月公開予定の映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」の原案本ともなった『人生、山あり“時々”谷あり』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。
子どもたちもサポートしてくれた
闘病中の私をサポートしてくれたのは、夫だけではありません。子どもたちも、いろいろな形で私を支えてくれました。
娘は、会社帰りに病院まで日参しては、足をマッサージしてくれました。細々とした世話は夫の担当でしたが、やはり娘とはありがたいものです。急に寒くなったときは、「アレを1枚持ってきて」と言えば、その日のうちに届けてくれるので、とても助かりました。
ただ、私の病気がきっかけで一番大きく変わったのは、息子だったように思います。息子は幼いころから「田部井さんの息子」として注目され、「いい子」であることを強いられてきました。その反動からか、親への反発も強く、30歳を過ぎても悪態ばかりついていました。
その息子が、私が病気で入院したのを機に、ガラッと人が変わったのです。私に対してもずいぶん優しくなり、「今まで心配をかけてごめんなさい」とメールしてきました。親に言いたい放題してきた手前、自分が悪いと思っても、なかなか素直になれなかったのでしょう。メールの文面を見て、「やっとわかってくれたんだなあ」と、しみじみ思いました。