演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第44回は俳優の佐々木蔵之介さん。朝ドラ『オードリー』の出演から、活躍の幅を広げていった佐々木さん。ある演出家との出会いが大きな転機となったそうで――。(撮影:岡本隆史)
どんな血みどろの舞台になるのか……
そして第3の転機は、これはもうルーマニアを代表する演出家のプルカレーテさんとの出会いだと思う。
――そうでしょうね。始まりは野田秀樹さんが東京芸術劇場の芸術監督になられる際、ヨーロッパをずっと回って面白いものを探されたそうなんです。ルーマニアに行き着いた時にプルカレーテさん演出の作品が面白いと聞いて、『ファウスト』と『メタモルフォーゼ』を観た野田さんが、「これはすごい、この人だ!」と思ったそうです。
「この演出家と、日本で作らないか」という話が聞こえてきたんで僕が手を挙げた。で、舞台の打ち合わせも兼ねて、8年前のシビウ国際演劇祭にルーマニアを訪れ、野田さんと同じ二作品を観劇したんです。
そしたら度肝を抜かれて。これまでの演劇体験にはなかったぐらいの衝撃を受けて、すごい人だ! と。『ファウスト』を上演した劇場は廃屋みたいな古い建物なんですけど、そこで本当に炎が燃え上がったり……消防車も待機してますし。フライングもあったり、また舞台が水を張ったプールのようだったり。
こんな人の演出で『リチャード三世』やったら、えらいことになる。どんな血みどろの舞台になるんだろうって、プルカレーテさんの芝居に出るのが、ちょっと怖くなりましたね。
でも、その日が来て……。芸劇(東京芸術劇場)の稽古場に役者たちが集まってて、みんなある程度キャリアがあるからこの戯曲はこう読むだろう、って予測するんだけど、それよりはるか上のことを言われるわけです。ちょっとすぐには理解できないけど……めちゃくちゃ面白い。(笑)