母を看取り、子も独立して、ますます自由になったという大竹しのぶさん。60代後半となったいま、大切な家族との絆に思いを馳せ、役者としての挑戦を続けている(構成:篠藤ゆり 撮影:清水朝子)
悩める王の本質を演じたい
(同居していた母を2018年に見送り、息子も結婚して自立。)そんなふうに家族や老いについて考えているタイミングで、舞台『リア王』のお話をいただきました。シェイクスピアの四大悲劇の一つとされていて、家族の断絶や権威の崩壊、老いた王の狂気――人間が誰でも持っている光と闇を描いた作品です。
イギリス人演出家のフィリップ・ブリーンさんとは過去3回、一緒に作品を作っています。今回、フィリップから『リア王』の提案があり、「えっ!私がリアをやるの?」とびっくり。考えてもみなかったけれど、じゃあやってみようかな、と提案に乗ってしまいました。
成人男性を演じるのは初めてです。でも、あまりそのことは意識していません。私は男にはなれないので、年老いて引退を決意した一人の老人の心を演じようと思っています。
共演者の一人に、「大竹さん、いろいろな役をやってるけど、とうとう性別も超えちゃったんだ」なんて言われましたけど(笑)。共演の宮沢りえさんや成田凌さんたちと1ヵ月以上にわたる稽古を通して人物を掘り下げていくのは、大変ですが楽しいプロセスです。