2025年10月、ウィーン国立歌劇場が9年ぶりに来日公演を開催するなど、日本でも人気が高まっているオペラ。ヨーロッパ最高の娯楽・教養であるオペラとは、どのようなものなのでしょうか?今回は、歴史ライター・内藤博文さんの著書『教養が深まるオペラの世界』から一部を抜粋し、奥深い名作オペラをわかりやすく解説します。
「フィガロの結婚」と近代のはじまり
──フランス革命よりも前に、近代の扉を開けたモーツァルト
「フィガロの結婚」(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト)
初演1786年 ウィーン ブルク劇場
全四幕 およそ3時間
これまでのオペラを過去の遺物化させた革新的オペラ
オペラの歴史のはじまりは、1600年ごろとされる。オペラはイタリアの都市国家で生まれ、イタリア半島で発達する。当時のイタリアの人気作曲家だったモンテヴェルディやペルゴレージ、ヴィヴァルディ、スカルラッティ、パイジェッロらによって、イタリアのオペラは唯一無二の繁栄を誇りつつ、イタリアのオペラ文化は北上していく。
フランスのラモー、リュリ、ドイツ出身の帰化イギリス人ハンデル(ヘンデル)らもオペラ世界を盛り上げ、オペラをヨーロッパの王室に定着させていった。当時、オペラは豪奢なオペラハウス込みで王の権威を喧伝する飾りだった。
彼らの事跡はオペラ史の中ではおおいに顕彰されるべきだろうが、残念ながらヘンデルのオペラを除いては、過去の遺物化している。現在、ヨーロッパのオペラ座でもそうは演奏されず、好事家の中の好事家の世界に収まっている。
なぜ、モンテヴェルディやペルゴレージらが化石化させられたかというと、18世紀後半にモーツァルトが登場したからだ。モーツァルトは、1756年にオーストリアのザルツブルクに生まれている。誕生から30年を経た1786年から没年の1791年までのおよそ6年間に、「フィガロの結婚」をはじめとする5作の傑作オペラを書いている。「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」「皇帝ティートの慈悲」「魔笛」と、この6年間で、俗にいう彼の「4大オペラ」プラスアルファが完成しているのだ。