作家の柚月裕子さん(左)と、棋士の羽生善治九段(右)(撮影:大河内禎)
将棋を題材にしたミステリー小説『盤上の向日葵』の映画化にあたり、作家・柚月裕子さんと、羽生善治九段に将棋の魅力を語っていただいた。それぞれの道を歩む二人が語る、意外な共通点とは――(構成:山田真理 撮影:大河内禎)

風変わりな指し手に手も足も出ず

柚月 羽生さんには5年前、小説『盤上の向日葵』の文庫化のときに解説文をいただきました。お忙しいから無理だろうと思っていたので、お引き受けくださったと聞き、「やったぁ!」と、嬉しかったです。

羽生 将棋界に関わりのある物語で、とても興味深く読みました。棋譜が記された対局シーンがあったり、名匠の作った駒が事件を解決する鍵になったりして面白かったです。

柚月 羽生さんの解説を拝読して、驚いたことがあります。小説では賭け将棋で生計を立てる「真剣師」が登場するのですが、かつて実在していた真剣師と、羽生さんは対戦されたことがあるのですね。どのような接点があったのですか。

羽生 私は小学6年生で奨励会に入ったのですが、それまでは力試しに、アマチュア名人戦など大人の大会に出場していました。ある大会で70歳過ぎのおじいさんと対戦したものの、その人の指す手がものすごく風変わりで。

自分が勉強してきた基本とまったく違い、手も足も出ず負けてしまいました。唖然としていると、同じ将棋道場の先輩が「あの人、実は真剣師なんだよ」と教えてくれたのです。

柚月 私が登場人物のモデルにした伝説の真剣師・小池重明(じゅうめい)さんとは、別の人物でしょうか。