生身の身体で向き合う迫力
羽生 ご自分の小説が映画になったとき、原作者としてはどのように感じるのですか?
柚月 最近は映像技術が進んでどんな場面もリアルに再現できるようになったぶん、作者やファンの「原作通りに」という欲求が強まった気がします。でも私が育った時代は映像化するにも限界があったから、原作と違って当たり前。面白ければいいと思っていました。その記憶があるためか、私は自分の作品が別の表現になっても違和感がありません。
たとえば今回の映画では、天才棋士・上条桂介(かみじょうけいすけ)役の坂口健太郎さん、真剣師・東明重慶(とうみょうしげよし)役の渡辺謙さんの演技が素晴らしくて。
ほかにも小説にないキャラクターも重要な役回りを担い、一人の観客として、ドキドキしながら楽しんで拝見しました。
羽生 私が映画の中で印象に残ったのは、ある人物が絶望の淵に立ったときに、将棋盤に駒を並べる《音》に焦点が当たったシーンです。