「どこか突き抜けた、天才でありながらダメダメな人に私は惹かれてしまうし、登場人物に投影したくなります」(柚月さん)

柚月 実はゴッホの「ひまわり」の絵からきています。あのなぐりつけるような独特のタッチと渦を巻くような線に、昔から惹かれていたんです。

羽生 ゴッホ本人も激情の人ですよね。なかなか壮絶な人生で。

柚月 そういうどこか突き抜けた、天才でありながらダメダメな人に私は惹かれてしまうし、登場人物に投影したくなります。それに「油絵は将棋と似ているな」と思えてきて。

羽生 えっ、そうですか?

柚月 画家は白いキャンバスに、描きたいモチーフを想像しながら、一つひとつ筆を置いていくと思うんですね。途中で色が変わったり違うモチーフが加わったりしても、目指すところは変わらない。将棋も、特にプロの方は、こうしていきたいという場面を思い浮かべて指していくのではないかと想像しました。

羽生 先ほど「人生の理不尽さ」というお話が出ましたが、自分ではこのような道筋で対局を進めたいと考えても、相手がいる限り思い通りにはなりません。ならないのだけれど、何とか頑張って自分の描いた道筋へ進もうとするところは、たしかに油絵と似ているかもしれませんね。

柚月 将棋の駒と小説のキャラクターというのが、またよく似ているんです。たとえば物語上、あるキャラクターをこちらへ進ませたいと思っても、「この人物の性格だと絶対そうはしないよね」ということが起きてしまう。

そこを無理に動かしてしまうと、リアリティが失われて物語がダメになるのです。自分の考えたキャラクターなのに、理不尽だなあといつも思います。