なんだか、今の言葉は自分が言ったような気がしません…(写真:stock.adobe.com)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは福岡県の50代の方からのお便り。図書館の駐車場ですれ違った女性が落ちていた枝に足を取られたようで――。
ふいに口から出た言葉は
3月のお彼岸の中日、仕事が休みだった私は図書館へ行きました。駐車場で70代ぐらいの小柄な女性とすれ違った瞬間、小さな叫び声が。どうやらその方が、落ちていた枝に足を取られたようでした。
恥ずかしそうに私を見た彼女は、「木の枝まで私をばかにして!」と、はっきりとした声で言います。
私はあいまいな笑顔でやりすごそうとしたのですが、口から出たのは「そんなことはありませんよ」という言葉でした。彼女はちょっと驚いたようです。それでも悪い気はしていないことを私に伝えるかのように笑顔を返し、図書館の入り口へと足早に向かいました。
なんだか、今の言葉は自分が言ったような気がしません。でも、今日はお彼岸だし、そういうこともあるかもしれないな、と考えました。亡くなった私の母のことを思い浮かべたのです。あの言葉は、母が言いたかった言葉なのかもしれないと。
幼い頃に両親を亡くし、厳格な祖母の養女となった母。中学を卒業し、祖母に言われて経理学校へ進み、生涯、家業を手伝い続けました。実を言うと、私も祖母の影響で、母のことを低く見てしまっていたところがあり、今は反省しています。
とにかくまじめで我慢強い人。それが仇となったのか、体調を崩しても病院に行かず、ついにがんが見つかった時は、手のほどこしようがない状態でした。
優しかった母。「人をばかにするものじゃないよ」と諭したかったのではないかと思います。