詩人の谷川俊太郎さんが、2024年11月に92歳で他界されました。その活動は多岐にわたり、詩作のほか、児童文学の翻訳、アニメ『鉄腕アトム』主題歌の作詞なども手がけ、作品は多くの人に親しまれています。娘の志野さんが親子の貴重な思い出を語りました。(構成:篠藤ゆり 撮影:洞澤佐智子)
海外に行かせてくれた本当の理由は
15歳の時、私は「中学を卒業したらアメリカに行きたい」と両親に言いました。父は「いいんじゃない?」と乗り気で。兄の影響もあってロックもよく聞いていたし、アメリカはカッコいいなと憧れていたんです。
母からは、「あなたは恵まれているから、ちょっと苦労しなくてはダメだと思ってアメリカに行かせた」と言われていました。ところが後に、実は違う理由があったと知ったのです。
当時、母は舅、姑、姑の姉の世話を一人で背負っていて、両親はそれに私を巻き込みたくなかったようなのです。兄は男の子なので介護の助けを頼まないけれど、女の子にはつい頼ってしまいそう、だからそれを避けたくて外に出したのだ、と……。
私自身、家族と距離を置くというのも海外に行きたかった理由のひとつでした。もともと母と祖母の関係は難しく、介護問題が原因で母はアルコール依存症になり、そのせいか人に対して言わなくてもいいことを言ったり、兄や私に対しても荒っぽい言動をとることもあって。そんな母を見たくない、という気持ちもあったのです。
1978年頃でしたから、両親は当時にしては進んだ考えを持っていて、私を外の世界へ送り出してくれたことをありがたく思います。