大切な人やものを失ったとき、人は喪失感を抱くものです。高齢者専門の精神科医として、多くの患者やその家族と向き合ってきた和田秀樹先生は、「喪失は誰もが避けては通れないものであり、喪失感を抱く状況は、人生が長くなればなるだけ増えるもの」と語ります。そこで今回は、和田先生の著書『喪失感の壁-きもち次第で何があっても大丈夫』から抜粋し、実際の相談事例とともに、さまざまな喪失感とどう向き合い、どう乗り越えていくかの具体的なヒントをご紹介します。
話題の新作映画の面白さがわからない
もともと映画が好きで、洋画も邦画もジャンルを問わず観てきましたし、昔は映画雑誌を読んだり、友人と語り合ったりもしていました。
定年後は時間もできて、シニア割引もありがたく使わせてもらいながら映画館に通っています。そして、コロナ禍で外出を控えるようになった頃、孫が「便利だよ」と配信サービスを教えてくれたのをきっかけに、家でも映画やドラマを観るようになりました。最初は映画館で見逃した話題作や昔の名作を見返すのがとても楽しく、これはこれでいいものだなと思っていたのですが。
最近は、評判の新作を観ても、どうもピンとこないことが増えてきました。「これが面白いのか?」と首をかしげながら観終わることが増え、時には途中でやめてしまうこともあります。
かつてなら感動して涙が出たような場面も、心が動かなくなっているように感じ、「自分の感性が衰えてしまったのでは」とショックを受けています。
映画サイトなどで感想を読むと「最高!」「泣いた!」という声が並んでいて、世間とのズレを感じることもあります。これは年齢のせいなのか、それとも感性が衰えて時代の流れについていけなくなっているのか……。
映画を楽しみにする気持ちはいまもあるのですが、「また期待外れだったら」と構えてしまう自分もいて、少し寂しい気持ちです。 (70代前半・男性)