最初から完璧なロボットではなく 一緒に育っていく相棒を
幼い時から、僕の夢は「ドラえもんをつくること」でした。大人たちから、そんなの無理に決まっていると笑われ、一時期は心の中に封印していた夢。それを数年前から再び語り始め、27歳になった今、実現に向けて一歩ずつ前進しています。なぜそれが可能になったのか。本書では、最先端のAI(人工知能)研究にも触れつつ、紹介しています。
原作漫画には、ドラえもんのひみつ道具として、「ドララ」としかしゃべれない小型ロボットが登場します。現在、僕らがつくっているロボットも、発する言葉は「ドララ」だけ。それでも人と「しりとり」をすることができるんですよ。
実験をすると、最初はぎこちなかったやりとりが、ユーザーのほうがロボットの言おうとしていることを予想して、会話が成立する。動物や赤ちゃんを相手にした時、言葉を介さなくても会話が成立しているような気持ちになることがありますよね。これと似たところがあります。
また内蔵センサーで人の表情や行動を読み取って、相手が笑顔になったら「嬉しい」、抱き上げてもらったら「ワクワクする」といった感情を、頭や手のシンプルな動きで表現します。
最新のAI技術からしたら、この子は、あまり賢くないロボットに見えるかもしれません。しかし「自分よりも弱い存在」「助けてあげたい」と思わせることで、ユーザーの愛着が増すのです。さらにやりとりを重ねることで情報を集め、そのユーザーにぴったり合った相棒になる。最初から完璧なのではなく、だんだんと育っていくようなイメージです。
AIがロボットの中身だとすれば、ドラえもんづくりは「人とAIがどうしたらより良い関係になれるか」を考える、HAI(ヒューマン・エージェント・インタラクション)という学問領域といえるでしょう。
工業大学付属の高校に通っていた頃、僕はひたすら技術を求めていました。でも外部の大学へ進学したら、周囲とあまりにも価値観が違う。かなりのカルチャーショックを受けたんです。人の価値観を理解できない人間がつくるロボットなんて怖いな、と思いました。
これは何とかしなきゃと、テニスやスキーのサークルなどを片っ端から見学。なじめませんでしたが(笑)。最終的には、友人に誘われて参加した児童ボランティアのサークルで、充実した時間を過ごせました。ただここでは、トップダウンで組織を動かそうとした結果、意見の合わない人たちが離れてしまうといった手痛い経験もあったんです。
そうした経験から、僕は「みんなでつくるドラえもん」という構想を持つようになりました。このロボットは、「全脳アーキテクチャ若手の会」という、大学も違えば分野もバラバラな研究者のコミュニティを中心に生まれたもの。現在は大学関係者だけでなく、企業人から高校生まで幅広い立場の人が参加しています。会の方針は、「それぞれが好きなことをやる」。参加者に上下関係はなく、全員がフラットな立場で関わっています。
さまざまな人の、生活に密着した経験や知恵は、今後の「ドラえもんづくり」にとても役立ちます。先日は、自閉症のお子さんとその親御さんがワークショップにいらして、多くのヒントをもらいました。ぜひ読者の皆さんも、僕らの会に参加してご意見を聞かせてもらえないでしょうか。そうして「ドラえもんを本気でつくる」仲間が増えていくことが、今の僕の大きな「夢」なのです。