疲労感、息切れ、夜中の動悸にひどいむくみ……。たび重なる小さな異変を更年期障害によるものだと思っていた翻訳家の村井理子さんは、それが重病の前兆だと気がつかなかったそうです。長い入院生活とリハビリを経た現在の暮らしと、不調にいち早く気づくための心構えを聞きました。(構成:山田真理 撮影:大河内禎)
仕事がなくなる恐怖で病院にも行けず
自分の体調が「どこかおかしい」と感じ始めたのは、40代後半のこと。翻訳やエッセイの仕事が軌道に乗り始めた時期だったのですが、当時小学生だった双子の息子たちはまだ手がかかり、机に向かえる時間は限られていました。
4歳年上の夫は働き盛りで忙しい。私の両親はすでに他界しており、近くに住む義理の両親も高齢で頼れません。甘えん坊の大型犬、ハリーの散歩も私の役目。
そんな毎日でしたから、岩を引きずって歩くような疲労感も、夜中にドキドキして目が覚めてしまうのも、「忙しかったから」「更年期だからしょうがない」と軽く受け流し、病院へ行くこともありませんでした。
市の健康診断は毎年受け、「心雑音がある」と指摘されていましたが、「ああまたか」と特に気に留めなかった。というのも私は7歳の時に、先天性心疾患で手術を受けています。胸骨を開く大がかりな手術で、退院してからも傷の痛みは長く続きました。
そうしたつらい経験を経て「ちゃんと治した」という感覚があったので、再び心臓の状態が深刻化したり、それが原因で死ぬかもしれないとは考えてもいなかった――というか、考えたくなかったのかもしれませんね。フリーランスだから仕事をキャンセルしたら、もう依頼が来なくなるかもしれないので。