24年前、カイロ大学に留学していた夫とエジプトのカイロで暮らしていたというマリさん。あまり良い思い出がなかったというその街を、久しぶりに訪れたところ――。(文・写真=ヤマザキマリ)

カイロの思い出

ひさしぶりにエジプトのカイロを訪れた。24年前、私はカイロ大学に留学していた夫としばらくこの街で暮らしたが、正直言って良い思い出はあまり残っていない。

カイロに到着したその日から、トイレへ行けば清掃員のおばさんにバクシーシ(チップ)をせがまれ、タクシーに乗れば毎回高額の料金をふっかけられる。カイロを思い出そうとすると、こうしたお金にまつわる苦い記憶しか浮かんでこない。

経済的に豊かな人が自分たちにお金を与えるのは美徳であり、当たり前のことだと捉えている人たちの、正々堂々とした横柄さに辟易した夫と私は、エジプトに見切りをつけて、当時はまだ平和だったシリアのダマスカスへ引っ越した。

同じイスラム圏ではあっても、シリアの人々はエジプトのように観光擦れしておらず、節度もあって親切だった。エジプトで疲れ果て、アラビア文学の研究という仕事を投げ出しそうになっていた夫も、ダマスカスで再びやる気を取り戻し、社会情勢が危うくなる寸前まで暮らした。