(画:一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「西国西海岸三ヵ所娘巡礼」です(画:一ノ関圭)
お正月は寂しかった。なにより大晦日が寂しかった。年越し蕎麦はまずかった。二年前の年越し蕎麦もまずかったのに、すっかり忘れて同じ店で同じやつを買ってしまった。年が変わる前にとっとと寝ちゃおうと思ってたが、ぐずぐずしてるうちに年が明けた。ねこちゃんにおめでとうとLINEしてみたけど既読はつかない。
次女のサラ子から電話がかかってきた。あっちではまだ明けてないのに、ひとりで年を越す母を思いやってくれたんだと思う。
長女のカノコと三女のトメからは音沙汰がない。忙しいんだと思う。二日、カリフォルニアで年が明けた頃、カノコから「もうすぐ会えるね」とLINEが来た。
一月半ば、あたしはアメリカに行った。
娘たちは、西海岸の北端から南端に、三ヵ所にバラけて住んでいる。あたしはおみやげでぎっしりの大きなスーツケースを二つひきずって、メキシコの近くからカナダの近くまで、飛行機に乗ったり車を運転したりして移動しまくった。
昔は親のために。今は娘たちのために。前世できっと悪いことをして逃亡してたか、修行で歩き回るお坊さんをあざ笑ったか、そんなことの報いがあったんじゃないか。それでこの生でこうして動き回っているわけ。
