(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
ベルギーを代表する法医学医のフィリップ・ボクソさんは、これまで6000体を超える検案、4000体以上の司法解剖を執刀してきました。そのなかには<一見すると不可解な死>もあるそうで……。そこで今回は、フィリップさんの著書『死体は語りだす:法医学医が読み解く「死者からのメッセージ」』から一部を抜粋し、実際に起きたミステリアスな事件をご紹介します。

法医学医の仕事

「もしもし、先生ですか? 現場で死体を見ていただきたくてお電話しました。不審なところは何もないのですが、念のために先生にご足労願いたいのです」

その当時は、「非業の死」を遂げた人―すなわち殺害された人や自殺者―だけでなく、自宅で誰にも看取られずに死亡した人を検案するためにも、リエージュ州では法医学医が送り込まれていた。法医学医でなければ気づかない殺人をあぶり出すことができるという意味で、このやり方は有効であった。

現在では、法医学医が呼ばれるのは死の状況が疑わしい場合、つまり第三者の介入があったと疑われる場合に限られる。これだと、殺人事件が見過ごされる恐れがある。

検察の要請を受けて現場に駆けつけるときの利点は、交通の妨げにならない限り、駐車禁止区画も含めてどこでも車を停められることだ。一般的に、警察官たちは法医学医が到着するとほっとする。法医学医の到着を待つだけ、という無為の時間が終わるからだ。

ただ、市内の交通渋滞のせいで、法医学医が到着するまでに時間がかかることはままある。救急車と違い、法医学医の自動車に優先権はない。数年前、法医学医たちが青い回転灯とサイレンの使用を認めて欲しいと要請したのだが、遺体の検案には緊急性がない、という理由で交通省から却下されてしまった。交通省の言い分はもっともであるが、そのために我々が迅速に仕事に取りかかれないのは問題だ。

現場に呼ばれた場合は、通りの名前だけを覚えておけばよくて、番地は忘れても構わない。なぜなら、警察車両を探せばいいからだ。通常、パトカーは現場である建物の正面に停まっている。