(画:一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「ほらほら、伊藤さん」です(画:一ノ関圭)
仔猫のジェシーがぐんぐん育つ。
家じゅうが仔猫のペースに呑み込まれて二週間、仔猫の世話役を一手に引き受けていたエリックが動かなくなった。遊ばなくなり、食べなくなり、押し入れの中や台所の棚の奥の籠の中という手の届かないところに隠れ潜むようになった。耳元で枝元ねこちゃんの声がぐわんぐわんと鳴りひびくような気がした。
「ひろみちゃん、獣医に診せたほうがいいよ、××が(ねこちゃんちの二代前の猫。名前を忘れてしまった。訊こうにもねこちゃんがいない)そうやって死んだじゃない、押し入れの中で死んでたじゃない」。
連れていった獣医で言われたのは、仔猫からうつった風が悪化したのだろう、と。発熱して脱水症状である、と。そういえば仔猫は目やにをくっつけている。そしてときどき仔猫っぽいしぐさで、盛大なくしゃみをしている(めちゃくちゃかわいい)。
エリックは点滴で水分を入れてもらい、抗生剤や解熱剤を注射してもらって帰ってきた。少し経ったら熱は下がり、そろりそろりと動き出した。でも仔猫が遊びたがって乗りかかると真剣に怒るから完治はまだだ。と、ここまではエリックの話。ところがクレイマーにも問題があった。「後ろ足の筋力が落ちてます」と獣医の先生に言われたのだ。
クレイマーの犬年齢を人に換算すると八十歳。この間まで七十八歳くらいだった。犬はすごい。加齢の速度がとんでもなく速い。この頃は「やっぱり八十歳の老人なんだな」と納得するような、そんな歩きぶりだ。ベッドやソファに上がるのも、よっ、よっ、よっこらと声を出してるような上がり方をする。後ろ足だけ残ったりもする。階段は、一段一段よろめきながら上がる。
それもこれも、夏のせいだ。夏が暑くて、やたらに長いせいだ。
