正面玄関横に設置された「雀の巣」のモニュメントが多くの来店客から愛されている、福来屋日本橋本店。親しみやすいデパートで、食品から衣服、日用品、貴金属など様々なものを扱っている。この福来屋に今日もまた、何かを買い求めるお客さんが足を運び――。

デパートを舞台にした、彩瀬まるさんのWEB連載小説、お楽しみください

 

 リビングの床に落ちていた靴下を拾い、ふと顔を上げると、ベランダへ通じるガラス戸越しの世界が雨滴でにじんでぼやけていた。

 数分前までは明るかった空が、暗く重たげな色に変わっている。

「ああ、降ってきちゃった」

 名鳥綾香(なとりあやか)は娘の唯(ゆい)が宿題をしているダイニングテーブルを振り返った。二時間ほど前に、宿題が終わったら公園のそばのベーカリーカフェにランチを食べに行こう、と約束した。唯は右手からころんとシャープペンを落とし、「えー」と悲しげな声を上げてノートに突っ伏した。

「雨でも、傘をさして食べに行く?」

「やだあ……寒いもん。外出たくない」

「そうだよね、あなた寒がりだものね」

 綾香は作業途中のフローリングワイパーを壁に立てかけ、台所へ向かった。外食の予定が潰れた代わりに、なにか昼食にちょうどいいものを探さなければならない。冷凍庫を開けると、昨日の朝食で使った食パンが顔を出した。

「ゆいー、お昼ごはんにサンドイッチを一緒に作ろう」

 冷蔵庫の中身を確認しながら呼びかける。ハムがある。卵もある。缶詰置き場にはたしかコンミートとツナもある。野菜室にはキュウリ、ジャガイモ。背後から「いえーい」と気の抜けた了承が届いた。

「唯はなに作る?」

「卵とハムとキュウリのサンドイッチ」

「了解。卵ゆでておくね」

「ママは?」

「どうしよう。うーん。コンミートとマッシュポテトのやつ」

「半分こ?」

「そうしようか」

「じゃあ私の分はマスタード入れないでね」

「はいはい」

 卵とジャガイモをゆで、予熱したオーブンの網に食パンを並べる。宿題を終えた唯が消しゴムのかすも含めてテーブルを片付けるのを待って、綾香はサンドイッチの材料をテーブルへ運んだ。

 手を洗い、トレーナーの腕まくりをした唯は、表面が狐色に焼けたトーストにマーガリンをのばし、スライスしたキュウリを均等に並べた。フォークの背で潰したゆで卵に塩こしょうとマヨネーズを加え、真剣な顔つきで味見をし、キュウリの平原に黄金色の丘を作る。最後にふわりとハムを被せ、もう一枚のトーストを重ねた。