
概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、調査研究本部の伊藤徹也主任研究員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
AI(人工知能)が安全保障のあり方を変えている。AIの開発と実装のスピードは速く、ルール作りが追いつかない。人間の能力を超えるAIに私たちはどう向き合うべきか。国際政治アナリストの石井順也氏、国立情報学研究所教授の佐藤一郎氏を迎えた6月23日の放送を踏まえて、出演した伊藤俊行編集委員に聞いた。
変化する戦場問われるAI
開発を巡るせめぎ合い
「米国はトランプ政権の下、AIの開発を競い合って進めてきた。その米国を巻き込んで、AIのガバナンス、特に安全保障分野について話し合ったことは画期的だった」=石井氏
「AIを国家や社会として制御しなければならない。開発と利用のルールを作らなければならないが、米国も中国もそのほかの国もルール作りを主導したいと考えている」=佐藤氏
伊藤徹6月に開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、各国首脳はAI企業のトップらを昼食会に招いて、AIの安全な利用などについて議論しました。日本からは新興企業「サカナAI」の伊藤錬・共同創業者が出席しました。「AI主権」と言われるように、AIの高い能力やAIを開発する企業の存在をG7も無視できなくなっています。ゲストの石井さんは「サカナAI」で防衛・インテリジェンス担当を務めています。
伊藤俊伊藤錬さんは昼食会に出席した後、「AIは国家に管理される戦略技術へと変わりつつある」と読売新聞に寄稿しました。米政府は6月、米AI企業アンソロピックに対して、最先端AIモデル「クロード・ミュトス5」などの外国人への提供停止を一時命じました。米国へのサイバー攻撃に悪用される恐れがあるなどとしています。石井さんによると、トランプ政権はAIの開発を推進してきましたが、これほど高い能力を持つAIの管理を一企業に任せておいていいのかという意見も出ているといいます。
米国は今回、最先端のAIをいわば囲い込もうとしました。米国の同盟国であっても、提供停止の対象になり得ます。AIをどう使うかは外交や安全保障の問題につながります。外交官出身の石井さんは、米国を価値観や安全保障上の利害を共有するG7につなぎとめる必要性を強調しました。
伊藤徹ゲストの佐藤さんは、信頼できるAIとして、AIの出力に根拠があり、間違いが少ないことをまず挙げました。さらに、AIは使い方次第のところがあり、AIの開発を含めてAIを適切に使うためのルール作りが求められるといいます。AIと人間の関係など、バックグラウンドになる考え方も深めなければなりませんが、なかなか追いつきません。
伊藤俊ルール作りは、本来であれば国連のような場で多くの国を巻き込んで議論するべきですが、同床異夢にとどまっています。ルールを作る国は有利な立場に立てます。自国のやり方を広げることができるため、米国にしても中国にしても自分が主導権を握りたい。米国は中国への半導体の輸出を規制することで、中国が最先端のAIを作ることを遅らせようとしています。中国は現時点でアンソロピックのようなAIを作ることはできないといわれます。対する中国は、多少性能は劣っていても安価で使い勝手のよいAIを作り、新興国などに輸出して影響力を保とうとしています。米国のAIはモデルを公開しない「クローズ」型なのに対して、中国はモデルを公開する「オープン型」という違いも見られます。「AI覇権」を巡る米中の駆け引きは激しさを増しています。