ライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります。第43回は「帰還兵のトラウマ」です
父の思う最悪の日は「太平洋戦争開戦の日」
私は70代になってから、良いことも悪いことも、ようやくわかったことが多い。そのひとつが、戦争についてのことである。
8月13日に放送された『NHKBSスペシャル 戦争トラウマ実態調査~苦しみの連鎖を断てるのか~』は、戦争に行った父親が心の傷を負い、戦後に家族を虐待して、孫にまで及んでいるという内容だった。
その後、雑誌『婦人公論』9月号で、『帰還兵のトラウマが家庭内虐待の連鎖を生んでいる』という映画監督の島田陽麿さんと臨床心理士の信田さよ子さんの対談を読み、29年前に亡くなった私の父もそうだったのかもしれないという思いに至った。
父は自分にとって最悪の日は「昭和16年12月8日の太平洋戦争開戦の日だ」と、私に話していた。日本が勝つはずがないと思っていた父は、戦争に行きたくなかった。
大学を卒業してから召集されたが、敵が死ぬのを近くで見たくないため、大砲で戦う砲兵部隊を望んだ。上官になると捕虜になった時に殺されると思い、上級試験を逃れて上等兵のままでいた。
父の両親と妹(次女)は東京大空襲で亡くなった。父は出征する前に結婚していたが、戦後シベリアに1年4ヵ月抑留されている間に死んだと思われ、帰国すると、愛する妻は他の人と結婚していた。
私の母も、東京大空襲で避難する途中に自分の父親とはぐれ、中学生の弟と逃げ回って大火傷をした。戦後、母は妻に別れを告げられた父と出会い、結婚したのである。
