イラスト:ホリベクミコ
親からの《遺産》は、お金だけとは限りません。思ってもいないものを、受け継ぐこともあるようです。永山さん(仮名)の場合、借金を残して死んだ父からのものでーー(「読者体験手記」より)

心当たりのない現金書留が届いて

父の口癖は、「お前らには、一銭も残さない。俺が家に金を入れているのは、ばんつぁんがいるからだ」だった。「お前ら」とは母と私のこと、「ばんつぁん」とは同居する私の祖母、父の母親のことだ。

父が亡くなったのは23年前。不動産も現金も見事に残さなかった。残したのは、亡くなる9年前に、父の会社が倒産した際の負債。ジーンズメーカーの下請け会社を経営しており、倒産は地方新聞の一面に大きく掲載され、負債額は億単位にもなった。

それを父は返済し続け、亡くなった時の借金は3000万円にまで減っていた。しかし、私と母が払える金額ではなかったので、相続放棄を裁判所に申し立て、借金を背負わずに済むよう手続きをしたのだ。

父が亡くなって半年ほど経った5月の連休、一通の現金書留が私の家に届いた。送り主は聞いたこともない金融会社。即座に電話したものの、留守番電話になってしまう。心当たりのない現金書留、相続放棄をした身で封を切ってはならないと、ひやひやしながら連休が終わるのを待った。

そして、休み明けに再び問い合わせると、父は亡くなる前にトラックを購入しローンを組んでいたことが判明。でも、父の死によりローン契約は無効となり、すでに引き落とし済みの金額が、返金されてきたのだ。現金書留には5万円が入っていた。普通なら「やった!」と思うだろう。でも、あの父がやすやすと私に5万円も残すわけがない。