『暗闇にレンズ』著◎高山羽根子 東京創元社 1700円

撮ることは暴力にも抵抗にもなりうる

「首里の馬」で第一六三回芥川賞を受賞した作家の書き下ろし長編。映画と映像と戦争をめぐる虚実ない交ぜの百二十余年の物語のなかに、数世代にわたる女性たちの姿を鮮やかに映し出す。

いたるところに監視カメラが設置された〈トウキョウ〉。これは現在、それとも近未来だろうか。女子高校生の〈私〉と〈彼女〉が携帯端末の小さなレンズで日々こっそり世界を切り取っていく。それがSide A。Side Bは、一八九六年に活動写真上映機が初めて日本に持ち込まれた場面から語り起こされ、横浜の娼館〈夢幻楼〉(むげんろう)で厳しくも商才のある母・ときゑに育てられた少女・照(てる)の姿が、まずはとらえられる。

Side AとBを行き来しながら時間は進む。女学校で科学と機械学を学んだ照は単身パリに渡って撮影スタジオで働き始め、友人の遺児・未知江(みちえ)を日本から引き取り育てることに。照の娘となった未知江は、後に日本へ戻って成長すると記録映画を制作する仕事に就き、世界を飛びまわる。だが、第二次世界大戦の混乱に阻まれて未知江の道は尽き、双子の子どものうち娘のひかりだけを連れて横浜に引きこもる。母に似て少し変わった育ち方をしたひかりは、戦後アメリカのアニメーションスタジオへ。

激動の時代、映画と映像は仕事となって彼女たちの人生を切り拓くが、残酷な未来につながるかもしれない不穏さも漂わせる。〈武器〉として使われた映画や映像についてのSFめいた物語が繰り返し差しはさまれるのが印象深い。撮ることは暴力にも抵抗にもなりうる。やがてSide AとBの時間が交わったとき、何かにレンズを向けるのはこの世界で生きることへの祈りのような行為でもあると、物語が思わせてくれた。