「役者にとって一番困るのは、家にこもっている間に身体が動かなくなること。自宅でできることは何かと考え、1日に2曲は舞を踊ることを日課にしました。」(撮影: 岡本隆史)
現在発売中の『婦人公論』1月26日号の表紙は歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんです。昨年の自粛期間、舞台が中止になってできた時間で、趣味の陶芸にじっくり向き合えたと前向きに語る坂東玉三郎さん。それでもやはり、舞台に立てるということが何にも代えがたいことであると痛感したといいます。発売中の『婦人公論』からインタビューを掲載します。(構成=篠藤ゆり)

演劇というものを愛するがゆえに

2021年は、大阪松竹座での「坂東玉三郎 初春特別舞踊公演」で幕を開けました。松竹座では以前にも、初春の舞踊公演を2度ほど行っております。2018年には、ロビーに上演演目の大きなパネルを展示して写真撮影を楽しんでいただけるようにしたり、劇場内を獅子舞が駆け回ったりと、いろいろと趣向を凝らして皆様をお迎えしました。

けれど今回は、花道を使用しないなどコロナ対策を徹底しながらの公演となりますので、ロビーでお客様が密になるような催しもできません。そこで、お正月らしさをどのように演出したらよいかと考え、『お年賀 口上』では、華やかな打掛をご覧いただくことにしました。京都の職人さんが1年がかりで仕立てた赤い鳳凰柄の1枚、『天守物語』でご披露した2枚、さらに『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』のために仕立てた1枚を予定しています。

口上に続いてお届けするのは、趣の異なる舞踊の2作品です。『賤(しず)の小田巻』は、源義経とその愛妾であった静御前の別れを描いています。そして、長唄の名曲『高尾懺悔(ざんげ)』を改曲し、新作舞踊として18年に初披露した『傾城雪吉原(けいせいゆきのよしわら)』は、雪景色で始まりますが、「春は来にけり」という歌詞で終わり、この季節にふさわしい演目です。

こうしてお正月公演ができて、足を運んでくださるお客様がいらっしゃる──とてもありがたい気持ちでいっぱいですし、私自身、舞台に立てるということは何にも代えがたいことであると痛感しています。

ただ同時に、歌舞伎だけではなく演劇というものを愛するがゆえに、手放しに喜ぶことはできません。小さな劇団などは、もっと大変な状況だと想像できるからです。もちろん演劇界だけではなく、医療従事者や飲食業の方など、さまざまなお仕事に携わる方が本当に大変な思いをなさっているはず。そのことを考えると、胸が締め付けられるような思いです。