70歳を前に急逝して6年、今年七回忌を迎えた直木賞作家・車谷長吉さん。会社員から料理人となった間に芥川賞候補になったり、受賞した文学賞を拒否したりと、その波乱万丈な生涯でも話題となりました。その変わり者の夫と、ともに40代後半で結婚した詩人・高橋順子さんは2017年に『夫・車谷長吉』(文藝春秋)を上梓、講談社エッセイ賞を受賞しています。『婦人公論』(平成10年12月22日・平成11年1月7日合併号)に掲載された、物書き同志の夫婦の日常をご紹介。
連れ合いは折り紙どころかのし紙付きの変わり者だった
49歳のとき、48歳の男と残りもの同士の結婚をして、丸5年が経った。結婚した当座は、二人とも初婚だったので、周囲の人に驚かれたり、からかわれたり、危ぶまれたりした。20代のやわらかい粘土のような二人ではなく、ひびの入った茶碗のような私どもであった。「割れ鍋に綴じ蓋」というが、茶碗同士合わせものになれるのか。しかしながらいっしょに食事をすることに喜びを感ずる私どもは茶碗であった。
後で聞いた話だが、私の仲間うちでは、じきに離婚だ、見てろ、もう秒読みだ、と好奇のまなざしで見られていたようだった。しばらくすると、順子もトシだから、離婚する気力がないんだよ、というところに落ち着いた。競馬用語でいう「波乱含み」のスタートだったが、いまのところは小波乱ですんでいるのである。
私本人は詩など書いているのを除けば、それほど変わり者の女ではない。本人のいうことだから多少割り引いて見てもらってもいいが、連れ合いのほうは折り紙付きどころか、のし紙付きの変わり者だった。風体からして尋常ではない。頭は一分刈りの毛坊主。会社員だから、背広を着ているが、革の鞄はもたずに擦り切れた手縫いの紺の頭陀袋をさげている。その中にどうやら貯金通帳など大事なもの一切合財が入っている。曇った丸い眼鏡。
奇をてらっているのではなく、成り行きで、こうなってきたことが、付き合ってじきに納得がいったが、人目を気にしない結果であることも分かった。過度に神経質になるか無頓着になる人である。