左から、畠中雅子さん、池上正樹さん、岩井志麻子さん
子どもが自立した生活ができないまま歳を重ねることになれば、親やきょうだいの生活設計にも大きな影響が出ます。多くのひきこもり当事者を取材してきた池上正樹さん、「働けない子どものお金を考える会」を主宰する畠中雅子さんに、すねかじり中の息子を持つ岩井志麻子さんが、「8050問題」に潜む背景を聞きました。家族が前向きな気持ちになるための方法はあるのでしょうか(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)

<前編よりつづく

問題を抱えこむ親の気持ち

岩井 実は私、「8050問題」トラブルの真っ只中にいるので、話を聞いていただけますか。ある高名な70代の脚本家の方と知り合いになり、一度だけご挨拶をしたんです。そうしたらある日連絡がきて、「生原稿を30万円で買ってもらえないか」とおっしゃる。

畠中 お買いになったんですか。

岩井 一度は買いました。でもすぐに「また買ってほしい」と。理由を尋ねたところ、「私は最近、ハリウッド俳優と交際しているので、お金がかかる」などと、お孫さんもいらっしゃるのに生々しいことをおっしゃるわけです。

畠中 ロマンス詐欺ですか。

岩井 ……と私も最初は思いました(笑)。でもどうも様子がおかしい。よく調べると、その方にはまったく働いていない3人のお子さんがいて、その3人や事務所のスタッフの生活を前期高齢者の脚本家がひとりで背負い続けているわけです。これはさすがに経済的に立ち行かないだろうと思いました。

池上 なぜお子さんたちは働かないのか、ご存じですか。

岩井 3人のお子さんのうち、同居されている1人は繊細すぎて、働くことが難しいようです。別居しているほかの2人は、ただ働かないだけみたい。私以外のところにも生原稿が売り払われているとあとで聞いたので、本当に切羽詰まってるんだと思います。

畠中 いくら一流の脚本家でも、高齢期になれば以前の生活水準を維持するのは大変。でも親の一番いい時期を知っているお子さんは、親の収入をアテにする。お話を聞く限り、このままでは明らかに経済的に共倒れすると思います。