イラスト:カワムラナツミ
人生100年時代を迎え、「定年後」や「老後」は「余生」ではなくなりました。おひとりさまで最期を迎えるケースも年々増え、住む場所を変える人、自宅をリフォームする人、元気なうちにシニア向け分譲マンションなどを探し、移る人も。『婦人公論』の読者アンケートで「理想の老後ライフ」を聞いたところ、1位が「健康的な暮らしができる」、2位が「十分な貯蓄があり、経済的に困らない」という回答を得ました。しかし、さあこれからという時に、先が思いやられるような出来事が起きてしまうこともあります。加藤英恵さん(仮名・69歳・無職)の場合は、きっちりとした人生設計をしていたのに、定年直後にがんが発覚。予定が狂って高知にUターンすることに。そのリアルな顛末とは……

末期のがんで故郷へUターン

私は社会学者の上野千鶴子さんのファンで、新刊が出ると必ず買って読んでいる。なかでも『おひとりさまの老後』には終の棲家選びのポイントが説かれていて、未婚シングルの私は「まさに自分のための本!」と感じた。

公立高校で長らく英語教員として働いてきて、45歳の時、都内に新築マンションを購入した。駅からやや歩くが閑静な住宅地にあり、隣には区民プールが。水泳が大好きな私にとって絶好のロケーションだ。老後を迎え、プールにせっせと通う自分の姿が想像できた。

貯金をつぎ込んで頭金の1300万円を払い、その後ボーナスのたびに繰り上げ返済を重ね、7年後にローンを完済。1LDK、広さ60平米の間取りはシングル向きで、同年代のおひとりさまが多かった。住人同士、よく部屋を訪ね合っては飲み会をしたものだ。上野さんの思想に共感して、ひとりで在宅死をすると決めていた私は、「このマンションでなら、互いに助け合っていい老後を送れそうだ」と考えるようになっていた。

そして、無事に定年退職を迎えた。雇用延長制度を使えば65歳まで働くこともできたが、もう仕事はいいかな、と思ったのだ。お金の不安はない、友達もいる、家もある──。

だが、2年前の11月。区の健康診断の検便で引っ掛かり精密検査を受けたところ、大腸がんが見つかった。しかも末期の状態で、肝臓にも転移しているという。ショックは大きかったが、当時、5歳上の兄もすい臓がんで闘病していたので、「ついにきたか」という思いもあった。